南米原産のアルゼンチンアリは、屋内への侵入により不快害虫として被害を及ぼすだけでなく、在来アリを駆逐するなど日本の生態系への影響が懸念され、2005年に施行された「特定外来生物による生態系等に係る被害の防止に関する法律(外来生物法)」に基づく“特定外来生物”に指定されている。 また、「我が国の生態系等に被害を及ぼすおそれのある外来種リスト(生態系被害防止外来種リスト)」(環境省・農林水産省)の“緊急対策外来種”にも指定されている。 このアルゼンチンアリの地域根絶は世界的にまれだが、イカリ消毒では、技術研究所のアドバイスを基に各地の営業所がこれまで蓄積したノウハウを活かして防除対策に取り組み、環境省承認の根絶宣言を各地で達成している。本種の防除とモニタリング方法や防除事例を紹介する。
1990年代に国内で初めて生息が確認され、2023年には20都道府県に分布が拡大し、北海道、埼玉、愛媛、鹿児島でも報告されている。(図1参照)
多数の女王が同居し、巣内で交尾を行い、個体数が増えると連続的に分巣してスーパーコロニーという巨大な集団を形成する。冬でも15℃以上で活動する。強い攻撃性で在来アリを駆逐したり、共生関係にあるアブラムシを増殖させたりするなど生態系を撹乱するほか、屋内に侵入して異物混入や電子機器内への営巣で故障の原因になるなど、大きな被害を及ぼす。
図1 アルゼンチンアリの分布(1990年代/2023年)
・粘着トラップ「LCインジケーター」を50m間隔で3日間設置し、捕獲状況を調査
・トラップの設置と回収の際には目視調査も行う
※市販のスナック菓子を置き、30分以上経過後に誘引されたアリを確認する簡易的方法もある
・アルゼンチンアリ用ベイト剤(毒餌)を5m間隔で設置
・アルゼンチンアリの生息場所に250倍希釈したフェニルピラゾール系液剤「ムシクリンFL(有効成分ピリプロール)」を200〜300ml/m²散布
・生息密度が高い場合は液剤散布を初回に実施
・ベイト剤での防除期間中にアルゼンチンアリの生き残りが見つかった箇所のみ、局所的に液剤を散布
・種の同定を行い、報告書を作成
・アルゼンチンアリの生息状況とその他アリ類の多様性を調べて、防除効果や薬剤による環境への影響を評価
粘着トラップ
「LCインジケーター」
フェニルピラゾール系液剤「ムシクリンFL」
(有効成分ピリプロール)
液剤散布の様子
2019年5月に、アルゼンチンアリの防除対象エリア約65,000m²において、高密度にアルゼンチンアリが確認されたおよそ30,000m²のうち約3,000m²(全長1,500m×幅2m)に液剤(ムシクリンFL)を散布した(200ml/m²)。散布面積は高密度生息エリアの10%のみだったが、コロニー内への有効成分の伝播効果(ドミノ効果)により、翌月の駆除率は99.1%となった。6月からはベイト剤のみを設置して、冬期を除く9回連続捕獲数ゼロ(根絶宣言条件)を達成し、その地区のアルゼンチンアリ根絶に成功した。
※施工期間:2019年5月〜2020年7月
対象エリアにおけるアルゼンチンアリと在来アリの分布(2019年3月、5月)
対象エリアにおけるモニタリング用粘着トラップ設置地点(25地点)
対象エリアにおける液剤(ムシクリンFL)の散布場所(2019年5月のみ)
対象エリアのおけるベイト剤の設置場所
アルゼンチンアリの根絶事例は世界的にまれであるが、イカリ消毒技術研究所と営業所がチームで取り組み、2016年に神奈川県横浜市で民間企業として日本初の地域根絶に成功した。また2019年には、静岡県において日本初となる県単位での根絶にも寄与した。イカリ消毒が関わった地域根絶事例は合計11件にのぼる。
環境省では外来アリ対策にはフェニルピラゾール系薬剤を推奨しており、事実これまで国内でアルゼンチンアリの根絶に成功した薬剤はこの系統の薬剤(フィプロニルまたはピリプロール)だけである。
ムシクリンFLは、国内ではじめてイカリ消毒が商品化したピリプロールを有効成分とするアリなどの歩行性不快害虫用殺虫剤で、2023年から一般家庭向けにも販売している。
※根絶条件:モニタリング調査で対象種が9回連続(12月〜2月は除く)で確認されないこと