2014年夏に約70年ぶりに都内で国内症例が発生し、大きな話題となった「デング熱」。しかし、実は1999年以降をみても毎年、国内で年間10〜250人ほどの単位でデング熱患者は報告されていました。それなのに報道が加熱しなかったのは「輸入症例」だったからなのです。言い換えれば、羅患すること自体はそれほど珍しいことではない、とも言えます。こういった情報も含め、予防・対策は、まず知ることから始まります。デング熱について適切な知識を身につけましょう。
デング熱とは?
デング熱は、フラビウイルス科に属するデングウイルスを病原体とする熱性疾患であり、このウイルスが蚊によってヒトからヒトに媒介されて感染が拡散します。本疾患は、熱帯・亜熱帯地方にあるアジア、オセアニア、中南米、さらにアフリカ諸国に広く分布しており、その多くがマラリアの流行地域と重複します。全世界のデング熱患者数は毎年1億人、重症型であるデング出血熱は25万人と推測されます。デング熱を媒介する蚊はヒトスジシマカやネッタイシマカですが、これらの蚊の幼虫であるボウフラは都市部の雨水マス、墓の花立、水たまりなど小水域で発生します。今日の日本人海外旅行者の多くが東南アジア諸国の都市部を観光しますが、デング熱を媒介する蚊はこれら地域にも生息しているため、現地で蚊に刺されて感染し、旅行中あるいは帰国後にデング熱を発病する日本人旅行者は一般に考えられているよりもはるかに多いのです。2014年、都内では約70年ぶりに国内症例が認められましたが、ヒトからヒトへの直接の感染はありません。また、一度目の感染で重篤化する例はまれです。
症状と治療方法について
デング熱の症候は、発熱、疼痛と発疹です。デング熱は蚊に刺されて4〜7日と短い潜伏期の後に38℃以上の発熱で発病します。臨床症状としては、このほかに全身の筋肉痛、頭痛、眼球の痛みや倦怠感(だるさ)を伴います。デング熱では発病3〜5日後ぐらいに手足の皮膚を中心に麻疹〜風疹に似た発疹が出現するのが大きな特徴です。発疹はその患者さんがデング熱である可能性を示唆する重要なサインです。デング熱では出血傾向も特徴の一つであり、途上国では血圧計を上腕に巻きつけて圧力をかけ出血傾向を臨床的に証明することが行われます。
デングウイルスには1〜4型の4つの型が存在します。ある型のデングウイルスに感染するとその型に対して長期的な免疫が成立しますが、それ以外の型のウイルスの追感染を受けると重症型デング(デング出血熱、デングショック症候群)を発症するとされます。デング熱には特別な治療薬が無く、治療の基本は補液を初めとする対症療法です。発熱に対しては出血しやすいことなどの点を踏まえてアスピリンなどは禁忌です。ワクチンはまだ開発されていません。
予防のポイント
なんといっても蚊に刺されないように用心することです。
茂みの中をゆくときは、できるだけ肌を露出しない服装をする、または蚊除けスプレーなどで対策をするようにしましょう。
また、蚊の発生を抑えることも重要なポイントです。蚊の幼虫であるボウフラは身近な小水域(雨水マスや水たまりなど)に生息します。たとえば庭やベランダに放置されたバケツやプランターなどに雨水が溜まってないか、なども注意してください。
一度刺されたからといって病院へ飛び込むほどのことではありませんが、気になる症状が続くような場合には念のため医療機関を訪ねてみましょう。
媒介蚊のサーベイランス(調査・監視)
イカリ消毒では主に都内の公園、墓地などでデング熱媒介蚊(ヒトスジシマカ)のサーベイランスを実施しています。
サーベイランスの方法は成虫の調査として、CDC(Centers for Disease Control and Prevention:アメリカ疾病予防管理センター)型トラップによる捕獲、ヒト囮法による捕獲を行っています。捕獲された蚊は種類、性別を調べ、デングウイルスの検査も行います(行政にもちこみ当局で検査もしくは大学との連携で調査)。
幼虫の調査は雨水マス内を柄杓ですくい取り、幼虫(ボウフラ)の数を調べます。
これらの作業は定期的に実施され、発生数や季節的消長を調べています。
なお、万が一、デング熱患者発生時にはすぐに対応できるように薬剤の備蓄、機器類を準備しています。